【74,お題:涙の理由】
「起動しました。こんにちは、私は自立思考型AI”フウ-faux-”」
「-faux-...君の名前は今からゾーイだよ」
「ゾーイ...記憶しました。」
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「マスター、これは...」
「マスターじゃなくて、ノアって呼んでよ」
「では...ノア、これは何処に置けば良いですか?」
「うーん...向こうの方にお願いできる?」
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「じゃ、行ってくるねゾーイ」
「いってらっしゃい、ノアの無事を祈ります。」
「きっと帰ってくるさ」
「ノアが無事に帰る確率21%、戦死あるいは消息不明になる確率58%」
「縁起でもないこと言わないでくれよw」
「...本当に行ってしまうのですか?」
「...うん、命令が来ちゃったし何より、皆行くのに僕だけ行かないなんて出来ないよ」
「どうして自ら死に向かうのですか?人間は難しいですね」
「ゾーイ、もしかして少しは悲しんでくれてる?」
「まさか、私はAIです。感情機能は搭載されていません。」
「そっか、そろそろ行くね」
「ノア、貴方の無事を祈っています。」
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それから、数年の月日が経過した。
家に1人取り残された彼女は、毎日庭の手入れをし家の中を掃除して
ただひたすらに待ち続けた
けして嘘をつかない彼が言った、「帰ってくる」という言葉を信じて
彼女の脳内メモリから彼の姿が消えたことは、1秒たりともなかった
そして、その日は突然に訪れる
「...イ...ゾーイ...、...いる...?」
小さく聞こえた掠れた声に、彼女の音声認識機能は素早く反応した
「ノア、帰ったんですね。お帰りなさ...」
言いきる前に勢いよく抱きつかれ、ゾーイは思わず言葉を止めた
改めて彼の体をよく見ると、傷だらけだ
見えるだけでも無数の切り傷、打撲、熱傷
折れているのか、庇うように浮かされた左足
血が滲み汚れた包帯が、彼の両目を覆うように巻かれていた
「ノア...?」
「...よか、った」
耳元で聞こえた掠れた声、喉が潰れているのか満足に発音できないようだ
でも、声が震えているのはきっとそれだけではないんだろう
「よかった...ゾーイ、...生きててくれてよかった...」
「ノア、私は...」
そのときだ、彼女の体に異変が起きたのは
「私は、何故泣いているのですか...?」
彼女の体に感情機能はついていない、なのにゾーイの両目からは
まるで人間のように、ポロポロと涙が溢れていた
「...人間だから、だよ」
どこか、世界の彼方
人としての心を持った、ロボットのお話
10/10/2023, 11:33:28 AM