G14(3日に一度更新)

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 子供の頃の夢は、アイスクリーム屋さんになることだった。
 食べるのも好なのはもちろん、食べる人の幸せそうな顔を見るのも好きだからだ。

 子どもに買ってあげる親。
 友人同士で同じものを食べる高校生たち。
 一つだけ頼んで、二人で分け合いながら食べるカップル。
 みんなが幸せそうなところを見ていると、自分も幸せになった。

 小さな愛、中くらいの愛、大きな愛。
 アイスクリームはたくさんの愛を運んでくる。
 だから僕もアイスクリーム屋になり、たくさんの人に愛を分け与えたいと思った。

 でも世界は残酷だ。
 僕にはアイスクリーム屋どころか、職業選択の自由すら無かった。
 先祖代々武器商人の家系で、自分も武器商人になることが決まっていたからだ。

 一度家を飛び出したこともあるが、すぐに連れ戻され罰を受けた。
 大好きなアイスクリームを食べることも禁止され、はっきり言って地獄だった。

 だが希望が無かったわけじゃない。
 粘り強く交渉した結果、副業としてならアイスクリーム屋をしてよいと渋々許可が出たのである。
 表面上はアイスクリーム屋として、裏では銃器の売買。
 二重経営だが、まさに天にも昇る気持ちだった。

 そうして晴れて夢が叶い、アイスクリーム屋(銃器含む)を開業。
 僕はおおいにテンションが上が――らなかった。
 なぜかって?
 アイスクリームがまったく売れないからだ。

 理由は明白。
 店の立地は人通りの少ない路地裏。
 空はこんなにも晴れていると言うのに、日光の届かない陰気臭い場所。
 こんな偏屈な場所に人が来るわけがない。
 普通ではない人間を除いて、だが……

 開店して一週間経つと言うのにアイスクリームの売り上げはゼロ。
 銃器ばかりが売れ、これではまるで武器屋さんである。
 冗談ではない。
 ウチはアイスクリーム屋である。

 だが憤ってもアイスクリームは売れることは無い。
 そこで僕は、銃器を買いに来る人間にも売り込みを掛けることにした。

「なあ、銃もいいが、たまにはアイスクリームも買っていかないか?
 おいしいぞ」
「馬鹿か?
 なんでそんなマズイもん食わねえといけないんだよ」

 気がついたら目の前の男を殴り倒していた。
 当たりどころが悪かったのか、呻くばかりで動こうとしない。
 コイツはアイスクリームを馬鹿にした。
 それだけで万死に値する。

 しかし『マズイ』という発言は引っ掛かる。
 アイスクリームはうまいもの。
 なのにマズイと言うのはなぜだろう? 

 と、そこであることに気づいた。
 もしかしたら、彼はアイスクリームを食べたことが無いのかもしれない。
 いわゆる食わず嫌いというものだ。
 そうでなければ、アイスクリームをマズイなんて言う訳がない!
 普通ではありえない話だが、彼の住む世界は裏社会。
 ありえない話じゃない。

 そうと決まれば話は早い。
 アイスクリームを口にすれば、きっと彼の偏見も消えるハズ。
 僕は使命感に駆られ、よそったアイスクリームを持って彼の側にしゃがみ込む。

「お前、こんなことをしてタダで済むと思って……」
「おい、アイスクリーム食えよ」
「お前何言ってる?
 頭でも打ったか?」
「気にするな、サービスだ」
「本当に何を言って――もごお」
「うまいか?」
「待て、息が出来な……」
「もっとあるから遠慮しなくていいぞ」
「ぐああああ」

 5個目のアイスクリームを口に突っ込んだところで、彼は動かなくなった。
 僕のアイスクリームにまみれた彼の死に顔は、まるで至福を閉じ込めたようだ。
 と思うのは僕の妄想だろうか?

 それはともかく、今回の一件で気づいたことがある。
「もしかしたら他の人間もアイスクリームを食べたことが無いのかもしれないな。
 家族が反対した理由もそこにあるのかもしれない。
 こうしちゃいられない。
 みんなにアイスクリームの素晴らしさを教えてあげないと!」


 🍧 🍨 🍦

「速報です。
 最近巷を騒がせていた、アイスクリーム殺人事件の犯人が捕まりました。
 被害者は全員裏社会の人間と言うことで、ヤクザの抗争が疑われていましたが、容疑者は『愛を与えたかった』と謎の供述をしており――」

6/30/2025, 12:54:09 PM