さぼてん

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題 子供の頃は

子供の頃だけ出来ることってあるじゃないですか。

もちろん、純粋な数とか、社会的に許されているかどうかの範囲でいったら、大人になってからのほうがずっと多いし広いと思います。

けれど、よく子供向けの冒険小説とかで見たことありませんか?
子供だけ入れる隙間に入って隠れたりとか、子供だからこその演技でその場を逃れる場面。

かくれんぼとかの遊びがその最たるもんだと思いますけど。
あの遊びをしている最中って、勝負の行方とかより、よくそこを思い付いたな、とか、よくそこに入れたな、とか、そういう発見で他の子供を驚かせてやりたいという一心だけで参加している子供もいるんですよ。

あの子と私もそういう感じでした。特にあの日は、夏休みのキャンプ、一つか二つ年上の知らない子と一緒に、初めて見る深い森でのかくれんぼでしたからね。
勝ち気な私もあの子も、小学生にとって一年上なんてのははるか大人ですから、うんと驚かせてやるんだと息巻いてたんです。

あの子のことは好きでしたよ。ずっとずーと、競い合いながら笑い合いながら遊べたらいいなと思ってました。
嫌いだなんて思ったことありません。喧嘩は子供にはつきものですし、むしろあるべきでは?
唯一、あえて言うとしたら、不幸だったのは、お互いにライバル心があったことなんでしょうね。
あの子じゃなくて私がこれをやってやりたかった、とか、あったんですよ。

あの子のとっておきの隠れ場所は岩の下でした。
一緒に見つけましたけど、あの子の方が足が早くて体が小さかったので。
するっと蛇みたいに潜り込んで、「私のー!」なんて叫んだんです。
…やだなあ、だから嫌いじゃなかったんですって。
地震が急に起こって、あの子の聞いたことない悲鳴が聞こえて。岩の下、真っ暗な影のなかから、あの子の真っ赤な、苦しみで歪みまくった物凄い顔が浮かんでて。
怖かったし。
可哀想だったし。
ちょうど、お墓みたいだったから。

岩で埋めました。
まあ、子供の頃の話ですから。
ちょっとあやふやなところはあるかもしれませんけど。

6/24/2024, 10:06:21 AM