弥梓

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『言い出せなかった「」』

※BL

しつこい男に言い寄られて困っている知り合いの女の子に泣きつかれた。
きっぱり諦めさせたいから、彼氏のフリをしてほしいと。
まぁ、それくらいならいいかと引き受けたのは僕なのに、童顔の僕では迫力に欠けると言われ、僕の恋人が女の子の彼氏役をやることになった。
最初は、なんでオレが、ってすげなく断っていた恋人だったけど、お礼にレアな高い酒を用意すると言われて、酒好きの恋人は掌を返して安請け合いした。
彼氏役の練習だと、女の子が僕の恋人の腕に両手を絡めた。
大きな胸が遠慮なく腕に当たっている。
恋人は別に嬉しそうでもなさそうに見えるけど、男だったら可愛い女の子の胸を押し付けられたら嫌な気持ちはしないだろう。
女の子の顔を見て気がついた。
しつこい男に言い寄られて困っているのは事実なんだろうけど、それを口実に僕の恋人に近づきたかったんだ。
女の子の目は、僕の恋人の綺麗な顔に釘付けだ。
僕の恋人だ、とは言えなかった。
男同士で付き合っていることは秘密にしていたから。
女の子だって悪い子じゃないから、彼が僕の恋人だと知っていたらこんなことはしなかっただろう。
それ以上見ていられなくなって、用事があるのを忘れていたと、僕は二人を残して家に帰った。
僕の恋人は女の子と寝た経験もあると言っていたし、男の僕と付き合ったことの方が彼にとってはイレギュラーなことだから、あんな可愛い子に想いを寄せられてると知ったら……。
トボトボと歩いていると、鋭い声にうしろから呼び止められた。
振り向くと、そこにいたのは僕の恋人だ。
「なんで……」
「お前の知り合いっつーから引き受けたってのに、お前がそんな顔するなら引き受けるわけないだろ」
「あの子、君のことが好きみたいだよ」
「知るか、どうでもいい」
「あんなに可愛いのに?」
「興味ねえ」
「胸だって大きかった」
「お前、ああ言う女が好みなのかよ」
「そうじゃないけど……だって、僕は男だから。あの子の方が君も幸せになれるんじゃないかな」
「オレが好きなのはお前だけだ。いい加減、腹括れ」
そう言って、恋人は僕のことを抱きしめた。

9/4/2025, 5:18:03 PM