初音くろ

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今日のテーマ
《突然の別れ》





「あーーーー!!」

段差に乗り上げた拍子に、その衝撃でバッグの中に入れてあったスマホが宙に飛んだ。
しかし自転車は急に停まれない。
律儀にタイヤの軌道上に落ちた我がスマホは、あわれ、自転車に轢かれてお釈迦になった。

「だからマメにバックアップしとけって言ったのに」
「連絡先とか写真はクラウドに自動同期されてるはずだけど……あー……」

電源は入るものの、ディスプレイが割れてしまって使い物にならない。
兄のスマホの画面が割れた時にはヒビが入ってただけで何とか表示されていたのに、わたしのスマホは真っ黒なまま。
ちなみに兄に話したら「おまえの体重がそれだけヤバかったんじゃね?」と笑われた。禿げろ。

キャリアのサポートに泣きついてみたけど「修理に出すとデータは全て消去されます」とのこと。
保険には入ってるから、明日にも少額の支払いでリペアされた交換用の機種が送られてくるだろう。
でも、代替機が来たところでこのスマホに入ってるデータは救済できない。
ゲームのスクショやダウンロードした画像、何よりメッセージアプリのトークが飛んでしまうのがつらい。
前に機種変した時には失敗してトークが消えちゃったから、特に思い入れあるやりとりはわざわざスクショしてあったのに。
こんなことなら保存場所をSDカードにしておけばよかったと悔やんだところでもう遅い。

バキバキに画面割れして痛々しい姿になったスマホを横目にべそべそ泣き言を垂れ流していると、わたしの頭を彼の手が宥めるようにポンポン撫でてくれる。
慰められて、少しだけ――ほんの1mmくらい気分が浮上した。

「お、生きてるな」
「え?」
「画面は死んでるけど、起動はしてるしデータも読み込む。とりあえず最低限、スクショとかは救出できるぞ」
「マジで!?」

がばっと身を起こすと、いつのまにか、わたしのスマホはケーブルで彼のノートPCに接続されていた。
アプリを起動させることなどはできないけど、スクショやダウンロードしたデータなどはこれでコピーできるらしい。
よく分からないけどパソコンすごい!

「代替機が届くのが明日で、これの返送期限は余裕持って10日くらいか。明日電器屋に行ってケーブル買ってこよう。この機種が対応してれば、テレビかモニターに出力できるかもしれない。で、もし出力できたら、アプリ系のバックアップとか機種変の手続きとかできると思う」
「マジで!? すごいすごいすごい!!」

滲んでた涙も吹き飛んで、わたしは彼の手を握ってぶんぶん振る。
持つべきものは機械に詳しい彼氏様々!!

「別に俺がすごいわけじゃ……」
「何言ってるの! そういう知識があるのもすごいし、わたしのためにそういう手段あれこれ考えてくれるのも嬉しいんじゃん!! ほんと最高!! 大好き!!」
「もう一声」
「好き好き大好き愛してる!!」

喜びのあまり大はしゃぎで彼に抱きついた。
どこかの馬鹿兄貴とは大違いだ。
頼れる彼氏を持って、わたしはなんて果報者なんだろう。
何より、わたしのために考えたり動いたりしてくれる、その気持ちが一番嬉しい。

大袈裟に喜んで「好き」の大盤振る舞いをするわたしに、彼が照れくさそうに笑う。
スマホとの突然の別れに泣き濡れたけど、彼の愛情を再認識できたので、結果的には悪くなかったと言えるかもしれない。
その笑顔に、この人を好きになって良かったと、しみじみ実感するわたしなのだった。





5/19/2023, 12:20:28 PM