ガルシア

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 音を立てないように寝室の戸を開ける。二つあるうちの一つ、盛り上がったベッドは既に眠っているようで、耳をすますとほんの微かに寝息が聞こえた。二つを遮るかのように置かれたサイドテーブルの上で未だに光を放つランタンを見るに、また俺が帰ってくるのを限界まで待っていたらしい。
 覗き込むと淡く照らされた顔の眉間にシワが寄っている。さっさと寝れば良かったのに、と呆れかけて罪悪感に襲われた。俺が放浪なんかしていなければ、真っ直ぐ帰ってきていればもっと早くぐっすりと眠れたはずなのだ。
 起こしたくはなかったが、ぎこちなく柔らかい髪に指を通して小さな頭を撫でた。俺がこういうことをするのが苦手だと知りながら、彼女はよく子どものようにこれをねだる。感触を楽しみ終えて手を退けると、どういうわけか表情は和らいでいた。
 額に口づけようとしてやめる。ランタンに息を吹き込んで火を消し、冷たいベッドに潜り込んだ。きっと今日も夢見は良くない。
 くだらないプライドも執着も捨てて俺から解放してやれれば、彼女はもっと幸せになれるはずなのに。鉛のような体にのしかかる自己嫌悪に潰されながら目を閉じた。


『いつまでも捨てられないもの』

8/17/2023, 7:45:49 PM