わをん

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『この道の先に』

たまたま街で見かけたひとのファッションの格好良さに一目惚れのようになり、思わず声をかけていた。
「その服、どこで売ってますか……!?」
女性とも男性とも判別のつかない背の高いその人は軽い驚きのあと、どこの骨ともわからないちんちくりんな私に微笑んで言った。
「これはね、自分で作ったの」
服を作るなんてことは家庭科の授業でしか習わないことであり、服といえば買うものという認識しかなかった私は衝撃のあまりに思考が停止した。格好良いその人は何かを言っていたと思うのだが、ろくな受け答えのできなくなった私が気がついたときにはその場から姿を消していた。
家に帰って母にミシンはないかと問い詰め、発掘されたミシンで手当たり次第に縫い物を始めた。それからというもの手芸屋は行きつけの店となり、ハイセンスなファッション雑誌を眺めては見様見真似の試行錯誤が続いていった。ファッション雑誌を読むようになってから、街で見かけたあのひとが世界的にも有名なデザイナーだと知ったのもこの頃。憧れと独学で突然始まった裁縫の道を歩み続けていけばいつかまた会えることもあるのかもしれないと漠然とそう思っていた。
専門学校を経てちんちくりんなりにも格好良いものを作れるようになってさらに数年。
「あらアナタ。ずいぶん素敵な服着てるわね」
街角で女性とも男性とも判別のつかない背の高い人に声をかけられた。
「貴方こそ、めちゃくちゃ格好良い服着てますね……!」
年月を経ても格好良さの変わらないその人はいつかの邂逅の再現に悪戯っぽく微笑んだ。

7/4/2024, 6:30:18 AM