月影 零

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『今はそれでいい。』

そう先生は言った。言ってくれた。
僕が"役立ずだ"と、"出来損ないだ"と自分を責めて責めて責めて追い詰めて…
自分の首を絞めていた時に掛けてくれた言葉。
「今は役に立てなくても、出来損ないでもいい。
いつか来る大事な時に自分の力を最大限に
発揮出来ればいい。
だから自分で自分を追い詰めて負の鎖で縛り付けないで、
今の自分を認めて、大切にして進みなさい。」

その言葉を辛い時、繰り返し思い出すとさっきまで
上手く出来なかった呼吸がすんなりと出来るようになる。
先生の言葉は魔法だ。

-何度となく僕を救ったその言葉の主は今年の7月、
この世を去った。僕は社会に出て世間の歯車として
日々働いている。そんな時、僕の目の前には1人の少年が立っている。あの日の、先生と出会った日の僕と同じ、
自分の価値を見失って彷徨って、未来に期待なんか出来ずに己の存在を呪って濁った目をしている少年が。
僕は彼と話をする。
彼が何を失くして、何を迷って、何を得たいのか。
沢山沢山話をして、そして僕は一つ少年に言葉を送る。
先生のように、少年の何かを救える様に。

『今はそれでいいんだよ。』

-ねぇ先生、僕も誰かを救えるかな。
僕の言葉でも救えるかな。
…わかんないけど自分のやれる事、やってみるよ。-

4/4/2023, 11:12:17 AM