菜々月なつき

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『これからも、ずっと』

 在宅での仕事中、膝にぬくもりと重みがかかる。見てみればケダマが膝に前足をかけてこちらを見上げている。
 「膝に乗せろ」のサインである。
 膝の上に置いていた姿勢矯正用のクッションをどかすと、8kgの重量が膝に乗ってくる。
 足先の4点に体重が集中するためそこそこ痛いのだが、猫飼いにとってはご褒美である。
 ふみふみと前足で踏みつけながら居心地のいい場所を探し、膝の上で丸くなる。
 膝の上のぬくもりは幸福の具現である。
 ケダマと一緒に過ごすようになって一年が経ち、私から抱っこは出来ないがケダマからは膝に乗ったり布団に入ったりしてくれるようになった。都合のいい熱源と思われているかもしれない。
 8kgの猫が膝の上で寝ている状況は、幸福であり同時に拷問でもある。8kgである。しかも身動きは許されないし、ケダマが大きいため膝からはみ出るので片手で支える必要もある。そう、仕事はろくにできない。お前のおまんまを買うために働いてるんだぞ。猫には関係ないですねすみません。
 私は左手でケダマを支えつつ、右手でマウスとキーボードを操作してどうにか仕事を続ける。
 たとえ仕事の効率が最悪に近くなろうとも、私の人生の幸福度は爆上がりしているので問題はない。
 ぷすぷすと鼻を鳴らしながら眠るケダマを見ていると、ろくに出来ない仕事を放り出して一緒に寝たい衝動が湧いてくる。だが、これからもケダマと一緒にずっとずっと暮らしていくわけにはそういうわけにも行かず、ここに猫飼いのジレンマが発生するのだ。
 はい、アホなことを言っていないで仕事します。
 あー、重た。ふふっ。

2023.04.08

4/8/2023, 5:19:42 PM