小絲さなこ

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「顔が好みでも趣味が合わない」



「そうか。じゃあ君はパン屋になりたいんだね」
「……え。そんなこと考えたこともないですけど」
「パン屋になりたいからパン教室に通っているんだろう?」
「いえ。そういうプロになりたいわけではなくて……」
「プロになるつもりもないのに、金払って習いに行ってるのか。君は浪費家なんだな」
「はぁっ?」



「──と、いうわけでさ、頭にきたから時間前だけどそのハイスペイケメンとの話打ち切っちゃったよ」

婚活パーティーのあと、どうもムカムカが収まらない私は、近くに住む親友に連絡した。

「うわぁ。その男ないわー」
「でしょー。向こうも私のことナイと思ってるだろうなーと思ったんだけど、最後のマッチングコーナーで私の番号掲げてたんだよ。意味わかんない」

テーブルの上にある、注文パネルで焼酎を検索する。
呑まずにやってられるか!

なぜ、初対面の男にパン作りの趣味をお金の無駄だと言われなければならないのだろう。
プロになりたいわけでもない人はパン教室に行ってはいけないの?
そんなわけあるか。

「パン作りの醍醐味は、自分でこねて形作って……焼きたて出来立てのパンが食べられる、ってことなのにねー」

私にパン作りをやってみないかと勧めたのは、この親友だ。
彼女は学生の頃からパン作りをしているが、パン屋になりたいと思ったことは一度もないという。

「そうそれ。私が通ってるところは『おうちで焼きたてパンが食べたいから』っていう理由で来てる人ほとんどだし。ていうか、そもそもプロ志望者向けの教室じゃないし!」

タッチパネルで揚げ物を検索。
アジフライを発見。カートに入れる。

「楽しいからやってる、それが趣味ってやつだと思うけどなぁ」

そう呟き、親友がタッチパネルを覗き込んだ。

「はーあ。今日の婚活パーティー、意味なかったなぁ……無駄にムカついただけだった」

「いや、顔が好みでも趣味合わないとダメってわかったんだから、収穫ありでしょ。あ、ハイボールおかわりお願い」

親友のこういうところが好きだ。



────意味がないこと

11/9/2024, 6:28:22 AM