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 扉が開くと白い熱気が部屋を満たす。
お風呂上がりの女の子の、のぼせそうな甘い香り。
ピンク色の飴玉みたいに頬が上気して可愛らしい。艶のある髪が乱れたまま重たく揺れると、透明な雫がぽつんと床を濡らす。
 ツンと胸を張って猫のように威嚇し続けるツインテールの彼女。その威勢はもう影も形もないほど薄れている。自然体ままにっと笑うと八重歯をちらつく。
「……なぁに突っ立ってんのよ。ほら、はやく髪乾かしてよね!」
 ふん、と機嫌良さげに鼻を鳴らすとペタペタと裸足のまま椅子の背もたれに深く越しをかけて背を向ける。視線をそらした一瞬、彼女の唇がむずかゆそうに動いていたのを俺は知っている。見惚れていたのに気づいたんだろう。
 しょがないな、と舎弟にでもなった気持ちで肩を竦めて彼女の髪を一束掬う。
 意地っ張りの甘えん坊なのに、不思議なほど不器用で甘え方にまだ迷っている。プライドはむしろ低い。褒められるのが飛び上がるくらい嬉しいのに恥ずかしがり屋だからつい高飛車を演じてしまう。
 両立できなくて嫌われないか不安がる繊細さは一緒の時間を過ごすうち、雁字搦めの糸が解けていくように顕著になっていく。眉尻を八の字にして瞳を彷徨わせるんだから、今となっては分かりやすくて仕方ない。
 ごう、とドライヤーの熱風の音はよく響いた。微睡みはじまる瞳はやっぱり猫みたいで、そんな彼女がやっぱり好きだった。
「……は!べ、べつに寝てないから。嘘じゃないからね!」
 寝てくれたらいいのに。実際、口に出すと余計に彼女は頬を膨らませて睨みつけたあと、迷子になった子どものように声を震わせる。
「一緒におやすみって言ったあと、抱きついて寝たいのよ」
 その言葉には光がつまっている気がした。眩しいものを見つめるように頷くと彼女はまた前を向いてしまう。気を引きたくて思わず抱きしめるとぎこちなく固まって文句をつけられてしまった。
それは暖かな夜の、優しい時間だった。

1/18/2024, 1:28:24 AM