水谷なっぱ

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「ごめんね」


彼は無表情で墓の前に立つ。彼の横では聖女と呼ばれる少女エミリーが辛そうに彼を見守っている。
その墓は魔族の侵略から王都を守った誰かの者だった。その遺体は原形を留めなかったから、たくさんの誰かが共同墓地という形で埋められている。
「……遅くなってすまない」
そう呟いてリオは手を合わせた。エミリーは一歩下がって眉間に皺を寄せている。
エミリーが聖女ならリオは勇者だった。魔族を蹴散らし魔王を倒し、今なお各地で暗躍する魔族の残党を倒す旅を続ける勇者。
そんな彼を慕って寄り添うエミリーだが、リオの感傷的なところにはどうにも共感しきれなかった。
(誰も彼もが救えるわけじゃないのにね)
この墓参りだってそうだ。リオは行く先々で魔族の被害者の墓に手を合わせるけど、それは一体なんのためなのかエミリーにはわからない。
墓に眠る誰かを憐れむことは失礼ではないかと彼女は思うのである。
「おまたせエミリー」
「もういいのですか?」
「うん。なんていうか、俺のただの自己満足だから」
それがわかっていて、なぜ。エミリーにはやっぱりわからない。わからないけど、聞くことで自身の薄情さをリオに晒すのが怖くて聞けずにいる。
「ねえリオ」
「うん?」
「……いえ、なんでもないです。ごめんなさい、行きましょう」
振り返ったリオはいつもどおりに優しくて、その優しさを失いたくないエミリーはやっぱり何も言えないまま彼に並ぶことしかできない。

5/29/2023, 11:28:19 AM