りくのいるか

Open App

愛を注いで

私は残念ながらずっと独り身なのだが

鳥の男性には愛されていた。

兄が飼っていたジュウシマツのクロちゃんだ

彼は例えるならタキシードを着た菜食主義の痩せた中年紳士のような鳥だった。

非常に綺麗好きで

トイレの場所も決めており、
他のジュウシマツは喜んで飲んだ豆乳も嫌がった。

クロちゃんは兄の髪の毛や髭をピッと引っ張って
毛ずくろいしてあげて愛情表現をしていた。

私はある時、思いつきでクロちゃんに、ミネラルウォーターを中指につけて、しずくにして飲ませてあげようとした。

クロちゃんは首を振って眉根を寄せるような嫌な表情をし

「いえ、結構です。」

と、丁寧に断わっていたが、私が何回も勧めたところ

「仕方ないですね、少しだけですよ?」

と、嫌々、お世辞で飲んでくれた

パッと表情が変わって

「おー!美味しい!もう少し、いただけますか?」

おずおずと、上目遣いで、さっき水を滴らせた指を優しく突っついた。

私は喜んで、彼の好物の南アルプスの天然水をあげた。

それからジェスチャーでクロちゃんは私とコミニケーションを取るようになって

クロちゃんから私にマッサージをして欲しいところを押し付けてきたり、

私が指で羽を広げても見ても嫌がらず

「僕の羽、綺麗でしょう?どうぞどうぞ、見て良いですよ。」

と、でも言っているかのように穏やかに微笑んでいるようだった。

ある時は

「温かいから直に手に乗せて」

と、

掌の上に乗せたフン避けのティッシュを嫌がって

私の見ている前を
右に左にぴょんぴょん飛び

珍しく私の手から逃げたので、

おや?と、様子を見ていたら

ちゃんとトイレを済ませてから

「これで安心でしょう?」

と、掌に飛んで来た時は、あまりに賢くてびっくりした。

言葉こそ通じないが、ほとんど意思の疎通が出来たので

私はこっそり、クロちゃんのくちばしにキスをしていた。

怖かったかな?とクロちゃんの表情を見てみると
気のせいだろうが、ウットリしているように思えた。
(鳥だけに……)

ある日、
クロちゃんが、私の肩にとまって、歌いながら踊っていた。

ご機嫌だなぁと思っていたら

クロちゃんが歌の途中でほっぺをつんつん優しく突っついた、

「え?なに?」

呼ばれた気がしたので

クロちゃんの方を向いたら

唇にくちばしで軽くトン、トン、トン

と……

キスしてくれたのだった!

ひゃああ
照れますな。

クロちゃんは歌を真剣に聴いて無かったりすると、

目を釣り上げて、

「今の聴いて無かったでしょ?最高傑作だったのに!」

めちゃくちゃ怒っていたので、歌に愛を注いだプロシンガーだったのだろう






12/13/2022, 4:26:59 PM