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明日、もし晴れたら、ロンドンに行こう。
ロンドン橋を渡って、テムズ川沿いのパン屋をのぞこう。
ロンドン、霧の街。
それでも、夕暮れが来ると澄み渡るように空気が晴れる。
君のブラックタウン訛りの英語を、聞き流しつつ、揃いの制服を着て、往来を行こう。
「ねぇ、カイル」
君の、そばかすの入った頬に、コカコーラの瓶みたいな、夕陽が差して来る。
川の向こう岸に、テラスの張り出したカフェがあって、そこで紅茶を飲む、カップルたちが、和気藹々と、談笑を交わしてる。
「あそこのパン屋さんのベーコン入りのスコーンが食べたいよ。僕、もうお腹がすいちゃって、君の持ってる教科書をかじりたいぐらいなんだ」
「ベン、冗談はやめて」
相棒のカイルは、くだらない冗談を言うのが好きだ。
僕が優等生なことを、いつも馬鹿にするような態度なので、僕はそれにいつも怒らなくちゃならない。
「もう、本当にカイルったら」
「君はいいよな、天真爛漫で。首席の君には、僕なんかとは見えてるものが、さぞ違うんだろうな」
「目は二つ! 一緒じゃないか。君とどこが違うって言うのさ!」
「あれれ、おかしいな。鼻はひとつだし、口もひとつだ。なーんにも変わんないね。僕たち。違うのは頭の中身くらい!」
「はぁ……これだから、君は」
「わかってるよ。今日のビリヤードで、僕が勝ったから、熱々のパンは、もうすぐ僕のお腹の中」
「そうだね。でも、本当に君は、腹ぺこのあおむしみたいなんだ。いつもいつも」

8/1/2023, 10:25:58 AM