カーテン
ラインで済むものを、彼女はわざわざインターホンを鳴らした。午前10時、アパートの前で落ち合う。
アイラインの整った笑顔が出迎える。新しい夏服にお気に入りのバッグ。今日を楽しみにしていたのがひしひしと伝わってくる。
一見してスタイルもファッションもいい彼女だが、僕には困っている点がある。それは彼女の独占欲が尋常でないこと、そして観察眼が並外れていることだった。
道を歩き出すと、早速、彼女が本領を発揮した。
「ところでさ、寝起きだよね。疲れてるの? それとも、今日のデートは乗り気じゃないの?」
「え、いや、気のせいじゃない?」
「ううん。だって、カーテンが閉まってたもん」
ドキリとした。僕を待つ間にベランダを見たのか。
「悪い、寝起き。時間なくてカーテン開けるの忘れた」
「そう、なんだ」
彼女の目が暗くなる。
「昨日、誰と飲みに行ったの? 何時まで?」
「ど、どうしてそうなる?」
「カーテン、ちゃんと開いてたよ」
「え」
ようやく鎌をかけられたことに気づく。
「今朝開け忘れたのに、カーテンは開いてた。つまり、昨日カーテンを閉めずに寝たんだ。それぐらい泥酔してたか、電気も点けずにすぐに寝た。ううん。シャワーは浴びたみたいだから、やっぱり酔ってたんだ」
事実、サークルの同期と遅くまで飲んでいた。だが正直に伝えると機嫌を損ねるのは目に見えている。少数だが女性も参加していたし、デートの前日に夜更かししたのは僕の落ち度だ。
どうしたものか、と僕は必死に頭を捻った。
「実は昨日、寝落ちしたんだ。明日どこの店行こうかスマホで探してたら、いつの間にか日が暮れて、カーテンもアラームもセットしないで寝ちゃってた。でもいい店見つけたからさ、許してよ」
「……そっか。それなら矛盾しないね。疑ってごめん」
にこりと言う彼女に、僕は早速疲れていた。
10/11/2024, 4:21:36 PM