結猫

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栗色の髪。
紅葉色の頬。
イチョウ色の目。
哀愁を誘う雰囲気。
大人びたたたずまい。
"イロハ"そう名乗る少年は秋を体現していた。
小学5、6年生くらいだろうか。そのくせに社会人の俺を『少年』なんで呼ぶ。

俺の上司は気分で言っていることがコロコロ変わる、人によって態度が変わる、高圧的に怒鳴る、自分のミスは部下のせいにするのに、部下の成果は横取りする。典型的な嫌いな上司という条件に全て当てはまっているんじゃないかと思う人だった。
俺は今日も上司に理不尽に怒鳴られ、むしゃくしゃしがおさまらずそのうち昼休憩になった。俺はこのまま会社にいたら上司が嫌いと態度に出そうだったのでなんとなくイチョウの木のとこに行った。イチョウの木の下にあるベンチで座り、愚痴をこぼしていた。そうしたら『どうしたんだ、少年。そんなにイライラして』と声をかけられ、声のするほうを向くと
小学生がいた。「君、小学生だろ?学校はどうしたんだ?」『心配ない。学校というものやらには行っていない』深く追求する意味もないのでそうかと返事をした。『ところで少年。貴方はなぜそんなに気が立っているのだ。』「さっきから少年って、俺はそんな歳じゃないしどっちかというと、君の方が少年じゃないか。はぁ、、、」しまった、いくらイライラしてても子供に当たっちゃダメだよなと思い。『すまん、イライラしてて当たってしまった』と言いもう一度謝ると『いや。大丈夫だ。私の方こそすまない。気が立っているときに話しかけるべきではなかったな。すまない配慮にかけていた』と言った。これではどちらか大人なのか分からない。俺は気がつくと子どもに「実は—-」と上司の愚痴を言っていた。『そのような人間が上に立っているのか?人間の上列関係は複雑なのだな。そのような奴は自分の立場にのぼせ上がっているだけだ。貴方のほうが何倍も立派だ。』と言われた。
俺は外見と言ったことの内容がそぐわなすぎてしばらくポカンとしていたが「ありがとう」といい昼休憩が終わるからと子どもに別れを告げた。
それがイロハとの出会いだ
それから俺は度々イロハの元へ相談(愚痴)をしに行くようになった。イロハはその度真剣に相談に乗ってくれた。『理解できないから嫌いなのだ。全部がそうとは限らないがな。でも、無理して理解しようとする必要はない。疲れるだけだ。まぁ、もちろん多少は理解しようとすることも大事だ。時と場合、その人間の性格にもよるが』と相変わらず見た目とそぐわない言動だ。そんな日々を繰り返すうちに俺とイロハは仲良くなった。深くは関わっていないが気兼ねなく話せる関係といったところだろうか。
そのうちイロハが少し具合悪そうになっている日が続いた。「イロハ大丈夫か?顔色悪いぞ」『大丈夫だ。問題ない』「そうか?ならいいけど、本当にしんどくなる前に休むんだぞ。」『あぁ』その後しばらく沈黙が続いた。少し気まずくなって「そういえばこのイチョウの木、病気なんだってな。近々伐採するんだって、もったいねぇよなぁこんなに綺麗でまだ若けぇのに。」
——いつも表情が変わらないイロハの表情が少し強張った。それ以降会話らしい会話はなく昼休憩は終わった。それから俺は仕事が忙しくなり、イロハに会えない日が続いた。仕事がやっとひと段落つき「久しぶりにイロハのとこ行ってみるか」と思いイチョウの木のとこに行った。そこにはイチョウの木が無くなっており代わりに切り株があった。「あぁ切られてしまったのか」と思いベンチに座りイロハを待っていた。しかしイロハは来なかった。次の日もその次の日もそのまた次の日も。切られてしまったのイチョウの木の種類は"イロハ"イチョウというらしい。「ハハッ、まさかな」
———————イロハとは2度と会うことはなかった。

11/4/2024, 3:41:29 PM