僕と一緒に
「つまんない顔してんね。せっかく世界が俺たちを祝福してくれるようになったのにさ」
あまりにも遅くではあるが、やっと気温も下がり、涼しげな風も吹き、それでも太陽は煌めいていて空は高い。
「つまんないよ。秋が来るってなんか寂しいじゃん」
「寂しい、ね。やっぱわからん」
「世界に祝福されてるようなやつには一生わかんないよ」
最寄り駅に繋がるあぜ道を、僕の影を掻き消さんばかりの、祝福を受けた明るい雰囲気を纏ったコイツと二人グダグダと歩き続ける。
たしかに、秋の匂いだ。食欲の秋、スポーツの秋、読書の秋。どれもこれも秋じゃなくても出来る。秋をそんなに特別視する事は僕には分からない。どうしても僕には寂しさや侘しさの方が強く感じる。だから秋は嫌いだ。
夜の間に冷えた空気が僕らの間を吹き抜ける。隣に歩くご機嫌なやつは、その前髪を撫でた風にもまた祝福を受けている。やっぱり嫌いだ。
特に今年は。
「なあ、進路どうすんの?」
知ってる。とっくの昔に聞いた。だけどまた聞く。
「言わなかったっけ?東京の大学行くよ、俺」
木の葉がはらりと足元に落ちてきた。
「忘れた。そっか」
「なんだ、寂しいのか?俺と一緒に行くか?」
「黙れ、行かねえよ。実家継ぐから行かん」
行きたいよ。なんで行くんだよ。
僕と一緒に、ここに残ろうよ。
9/24/2025, 5:22:56 AM