疎外された男

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ココロオドル

それはふとした会話から生まれた。
「もし、君が僕より先に死ぬことがあったら君のその手をくれないか?」
君の目がほんの少し瞬いたのが見えた。まるでこの人は何を言っているのだと言いたげに。しかし直ぐにそれが微笑みに変わったので、今度は私が瞬く番になった。
「いいよ。どっちの手が欲しいの?」
「み、右が良いな...僕が握るから」
この女は何て事を言うのだと思った。私の発言を気味悪がることもなく、まして回答を寄越すなんて。私には初めての経験だった。
どくどくと私の心臓が脈を打つ、まるで恋にも似た感覚だった。私たちは互いに目を離せずにいた。私は離したかったが、向こうは私を子供をあやすような慈しむような目で私を見ていた。私は何故かそれが心地よく、ずっと見られていたいような、見られたくないような不思議な気持ちだった。
向こうが笑顔をすっと引っ込めると、私の拘束も解けた。
「じゃあ、遺書にでもそのように書いておこうな」
「い、いいのか?僕は本気にするぞ?」
向こうは笑顔を携えて頷くばかりで結局明確な答えを寄越すことはなかった。
またどくどくと心臓が鳴り響いたこの気持ちは一体何なのだろう。しかし、今日は久々に心が踊りそうなほど気分がよかった。

『狂人』

10/9/2024, 11:51:47 AM