一緒に住む前、りずちゃんからはいつからか線香の匂いがした。少しカラオケへ行くときも、東都へショッピングに行くときも。百円ショップで売っているようなチープなものじゃなくて、白檀の香りがするような。それこそ、会って初めの頃は一種の香水なのかと見紛うような。
それが一緒に暮らし始めてからはパタリと無くなった。ついに私の鼻がおかしくなった可能性は否定できないが、ルームシェアしているこの部屋に仏具の一つも見当たらないのでは鼻が慣れたという考察は見当違いだろう。
私はその時〝幸せ〟を感じた
私が線香を手向けられた人の代わりになった、私がこの子の特別なんだ、と。
**
帰宅した彼女から揺蕩う、線香の匂い。
そうか…今日は。
「お墓行ってきたの?」
「なんでわかるのー?」
「線香の匂い」
「そんなに匂うかなぁ」
線香の匂いが、彼女から消えたとき。私は確かに幸せを感じた。でも、それと同時に寂しさも。彼女自身のものかもしれないし、私のものかもしれない。でも今は、年に一度、線香の香りをつけて私の元へ帰ってくる、このときだけは。
1/4/2025, 3:45:46 PM