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パキッパキッと、踏み砕く音にやや面倒になってペンを投げる。

「うお、あぶねぇ!?」
「当たればよかったのに…」

ここは私の、アトリエ。
ガラスで描く、無色の世界───。

「累計何億$かしら…いい加減学んでくれる?」
「わりぃわりぃ…力加減は苦手でなぁ」
「それで?」

ガラスに沿わせた刃を止めて、耳だけ後ろに傾ける。
入ってきたのは、極彩色の鱗を持つ竜人。
人の世に降りては、宝をせびる俗物だ。
どうせ今日も、奪ってきた宝を見せびらかしに来たのだろう。
わざわざ見てやる理由はないが、話くらいなら聞いてもいい。

「いや、何。俺様の信者どもがな?」
「ええ。」
「コレ見せたら、それ以上の宝なんてございません!とか言い出したんだよ」

思わずぴくりと耳が反応する。
なんだかんだで、この男の信者は目利きだ。
それが絶賛する宝…。

少し…、いや、かなり気になる。

「それは、私の作品よりも?」
「おう?ダントツだと思うぜ?」

その上でコイツも高評価か…。
少しぐらいみる価値はあるかも知れない。

「見るわ」

スッと指先に魔力を込めて、ガラスの台座を撫でる。
くるりと景色が変わり。

はたしてそこにあったのは───。

「ィッ……いいと思うわ…」
「だろ!?ウチのポストに入ってたんだわ!」

気の迷いで作った、竜人の彫像だった。
しかも、ご丁寧にクリスタル製。
馬鹿力に対応した特注品だった。

無言で作品制作に戻る。
隣では、馬鹿が自慢げに像を讃え、それに反応して、彫像から極彩色が広がってくる。

とんでもなく、邪魔である。
私の魔力が揺らぐのも仕方ない。

…そもそも、なんで気づかないのよ?

なんともモヤモヤした気持ちで、向けた視線。
彫像の中心部には、竜の逆鱗…
極彩色を放つ三日月が堂々埋め込まれていた。

4/18/2026, 12:58:18 PM