行かないでと、願ったのに
度数の弱い缶チューハイを二人で半分こ。その250mlだけでも自分の顔を赤くするのには十分だったが、彼はまだ足りないと缶を開ける。お酒は得意じゃないし、別に好きでもない。だけど、一緒に飲めるとなると、彼はすごく嬉しそうな表情をするから。その笑顔が見れるなら、少し苦手な酔いが回る感覚もへっちゃらだった。彼を背もたれにしながら、ドラマの1話が終わるまでのわずかな間に襲ってくる眠気の波を潜り抜ける。こんなにも幸せな時間が少しでも長く続きますようにと、このまま彼が自分のもとにいて、どこにも行かないでと、願ったのに。
冷蔵庫を陣取る缶チューハイを見るたびに胸が痛む。ねぇ、早くきてよ。一人じゃ空にできないじゃん。硬い背もたれだと寝られないじゃん。ドラマも見れちゃうじゃん。二人で茶々を入れながら見ないとストーリーがつまらないって気づいちゃうじゃん。寂しいじゃん。のびのびと足を伸ばせる布団も、二日酔いに悩まされずに起きる朝も、嬉しいはずなのに嬉しくは思えない。自分ではないその喉が、おいしそうにアルコールを吸い込んでいく音を聞こえないなんて本当に嫌だ。それなら、行き場のないあのチューハイと同じように冷蔵庫に並んで、じっと時間を過ぎるのを待っていたい。いつか、彼が外に連れ出してくれるのを願いながら暗闇に目を閉じる。
11/3/2025, 10:57:51 AM