『ずっと隣で』
こどもの頃からやっている柔道でライバルと思っている人がいる。県大会レベルでは敵なし状態だったので天狗になっていた私は地方大会で初対戦したときに負けを喫し、その人は優勝した。その人は同い年で、天才とかサラブレッドとか呼ばれている人だった。どうして表彰台に私はいないのか。そして、表彰台に乗ってメダルを受け取るその人にはどうして笑顔が無かったのか。そのふたつを強烈に覚えている。
負けてからはそれまでサボりがちだった基礎練習や筋トレをちゃんとやるようになった。負ける要素を少なくすれば勝てるようになる。勝てるようになれば、勝手にライバル認定したあの人にも勝てるかもしれない。次の年の地方大会にも出場し、再会できたのは決勝戦。無駄のない動き、判断の早さ。どれをとっても段違いだった。
表彰台に登る前、少し話をした。今日の試合はこれまでで一番楽しかったとその人は言った。
「実は去年も対戦してたんだけど、覚えてる?」
「ごめん、全然」
うふふ、と笑いあってから表彰台に登る。少しだけ笑顔になったその人を見て、なぜかとてもうれしかった。
あのときの試合を胸に、今日もまた練習に励んでいる。いつか勝てるかもしれないという思いもある。けれど、また楽しい試合をしたい。私が強くなればあの人を笑顔にできるとわかったから。
3/14/2024, 3:59:51 AM