悪役令嬢

Open App

『やりたいこと』

穏やかな日差しが降り注ぐ優しい昼下がり、
領地の修道院では恒例の
炊き出しが行われています。

悪役令嬢と執事のセバスチャンは、この日の
炊き出しを手伝うため修道院へ姿を見せました。

「スープはこちら側にお並びくださいませ」
手際よく案内を続ける若い修道女。
二人は彼女の指示に従い、
早速準備に取り掛かります。

炊き出しには、日雇い労働者や
職を持たない方々がたくさん訪れます。

「ありがとうございます」
「神の御加護がありますように」
悪役令嬢とセバスチャンは一人一人に
丁寧に声を掛けながら、
スープとパンを手渡していきます。

最初はぎこちなかった作業も次第に
滑らかになり、行列の先にいる人々の表情にも
少しずつ安らぎが見て取れるようになりました。

「お嬢様、ごきげんよう」
そこへ何人かの少女たちが、
悪役令嬢のもとにやって来きました。

スカートの裾をちょこんと摘んで挨拶をする
可愛らしいレディ達に、微笑みかける悪役令嬢。

「ごきげんよう、素晴らしい天気ですわね」

その光景を優しい眼差しで
見つめていたセバスチャン。
ふと視線を下に向けると、サッカーボールが
彼の足下に転がってきました。

一人の少年が呼びかけてきたので、
セバスチャンはボールを思わず
力強く蹴り返してしまいました。
疾風の如く少年の横を通り過ぎたボールに
子どもたちは最初唖然としましたが、
やがて大きな歓声が響き渡りました。

「セバスチャン?」
いつの間にか姿を消していた執事を探していると、
なんとそこには無邪気に笑う彼の姿が。
子どもたちと一緒にサッカーを楽しむ
セバスチャンを見て、悪役令嬢は
心底嬉しくなりました。

彼女のやりたいこと
それは領地の方々の暮らしを
もっとよく知ることです。

彼女のお父様が以前、領民を幸せにする事
こそが貴族の責務だと話しておられました。

このような日々を通して、悪役令嬢は
領民の暮らしをより身近に感じられるよう
になりましたとさ。

6/10/2024, 5:15:11 PM