いぐあな

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300字小説

届いた想い

 間に合うて良かった。
 主が家を出るときは心配したもんじゃ。
 離れて暮らせば主は吾を忘れる。責めてはおらん。新しい土地の新しい生活に心を費やされ、忘れてしまうのは人として致し方ないことじゃからの。
 じゃが、想いが届かねば、吾の加護も届かぬ。主は心が疲弊すると悪運を呼び込んでしまうからの、それはもう心配した。
 ……しかし、本当にいざという時に主は吾を想い出してくれた。それで良い。最後の最後で吾にすがってくれれば助けられる。
 じゃあの、身体に気を付けて息災にな。吾はいつも主を想うておるぞ。

 事故に遭い、目覚めたときは病院の病室にいた。ふと実家の匂いが鼻をくすぐる。
「……お母さん、帰ったら神棚にお供えをあげてね」

お題「届かぬ想い」

4/15/2024, 11:36:46 AM