その神様は生まれた時、一人でした。
際限のない暗闇だけが広がる世界。
その中で彼女はひとり存在していました。
ひとりでいる代わりに
世界を創れる能力に秀でていました。
まるで自らの寂しさを埋めるかのように
世界と秩序を創り上げ
自らの血肉と涙から8人の子どもたちを生み出しました。
平坦な道のりではありませんでしたが、
彼女と子どもたちは
箱庭のような世界を一つにまとめていきました______
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「(……まるで与太話だ)」
青年は筆を走らせる手を止めた。
母と兄姉達の悲劇を隠蔽するために流布する作り話。
託された形見には母の苦悩が切々と記されており、
読み進めるごとに視界が涙で滲む。
母と兄姉達の確執は修復不可能なまでに拗れ、
更なる悲劇を呼び起こした。
「(この嘘が現実だったったら良かったのに)」
皮肉めいた自嘲が浮かぶ。
何もできなかった僕が願うなど烏滸がましい。
青年は文机に突っ伏し、
しばらくの間顔を上げることはなかった。
涙から生まれた命→(作中における)青年
前半部分は長編で実際に出てくる(事実に基づいた)おとぎ話の一部。
9/11/2025, 11:44:10 AM