弥梓

Open App

『8月、君に会いたい』

久しぶりに雨が降った。
いつもより暑さも和らいで少しだけ過ごしやすい。
こんな日は君がいなくなった日を思い出す。
あの日も朝少しだけ雨が降って、お昼前に雨がやんだ後は空に大きな虹がかかった。
それを綺麗だねと笑った君の笑顔は、真夏の太陽のように輝いていた。
君の門出を空も祝福しているんだろう、と言った僕に抱きついた君の細い肩が震えてるのには気が付かないふりをした。
夢を叶えるために遠い国へ旅立つ君のことを応援したかったから。
そばにいて欲しいという自分の気持ちもしまい込んで、さよならを告げた。
待っているとは言わなかった。
優しい君は僕のことを気にしてしまうだろうから。
それでもいつか、君が帰ってきた時もし君も一人で僕に連絡をくれたなら、なんて淡い期待だけは捨てられずにいた。
ポストに入っていた外国からの手紙。見覚えのある筆跡に期待と不安が入り混じる。
君の答えはどちらなのだろう。
封を開けると、異国の香りがした気がした。
丁寧に二つ折りにされた便箋を開く。
真っ白な便箋の真ん中に小さく書かれた『会いたい』の文字に、僕は居ても立っても居られなくなって、クローゼットの奥にしまい込んだキャリーバッグを引っ張り出した。

8/1/2025, 10:34:56 AM