美琴から茶会に誘われたのは、昨日の午後のことだった。澪子がいつものように学舎の庭で土いじりをしていると、美琴がやってきた。
護衛はいるが、舎内で侍らせているいつもの取り巻きがいない。花壇の囲いの前で立ち止まった美琴は、日傘を畳んだ。
「あなた、明後日の午後の予定は?」
取り巻きがいようといまいが、その居丈高な態度は通常運転だった。
「明後日ですか?明後日は1日、特に何もないですよ」
だから本邸の庭に手を加えようと園芸店で購入した、とまで言いかけた澪子は口をつぐんだ。日差しが眩しいのか目を細めた美琴は、後でお茶会の招待状を送るわとだけ言い、日傘を差し直して去ってしまった。
有言実行。
その日学舎から帰るや否や、本当に招待状が届いた。ふわりと鼻をくすぐる薔薇の香りを漂わせ、いかにも格調高そうな高級紙に手習の手本のような整った字。金色の文字で書かれた鳳翔澪子王女殿下に頬を引き攣らせた義兄は、とうとう美琴を怒らせたのかと青ざめながらも、家令に手土産を用意させ、澪子に茶会での振る舞いを叩き込み、女中頭に訪問着を選ばせ、当日澪子に付いていく護衛や目付け役に対して美琴の逆鱗に触れる前にフォローできるよう一挙手一投足何もしでかさないように見張ってくれと念押ししていた。
「わざわざ友達……友達?知り合い?の家に行くだけなのに、美琴ちゃんも兄様も大げさよ」
「澪子、くれぐれも美琴ちゃんなどとちゃん付けで呼ぶんじゃないよ」
立場ある者が口頭ではなく敢えて招待状という紙に残すことを選ぶ意義を説いた義兄は、かなり不安げな様子で澪子一行を見送った。
しかし、こんな仰々しい訪問に美琴は特段動じることなく、茶の間に案内した。
「あなた、鳳翔のお屋敷で畑なんて耕すほど農業に精通しているけれど、学舎では庭師とよく一緒にいるわね。それならお花にも詳しいのかしら」
美琴がテーブルに出してきたのは、植物の写真がたくさん載ったアルバムだった。今度豊楽家が経営に携わっている植物園で
6/1/2023, 9:27:03 AM