『またね』
「じゃ、これも今日で最後だね...」
「そうだね。」
彼女の家から出て自転車を出してくる。
いや...もう彼女じゃないか。
たった今別れた。
どっちか聞くのは野暮ってもんだよ。
自転車を玄関前まで持ってきて帰ろうと思ったが
ふと夕焼け空が目に入った。
初めてここから帰った時は乾いた空が異様に寒かったっけな...今じゃあの寒さが恋しい季節だ。
「どしたの?」
「あ、いや初めて家にお邪魔したこと思い出して。
あれからずっとお邪魔してたなあって。」
「あー...確かにね...」
「「....」」
会話も弾まない。もうこれ以上の進展は無いって事だ。
自転車に跨る前に彼女に体を向ける。
「それじゃ、またね。」
「うん、バイバイ。」
いつもの掛け合いをして自転車のペダルにグッと力を込める。
またね...本当に来たらどれだけ嬉しかっただろうか。
そんなまたねはもうやってこない。
夕日が完全にビルの群れに飲み込まれた。
熱された世界がどんどん冷え始める中、
家を目指す足はどんどん早くなっていく。
この熱をずっと感じていたいように...
語り部シルヴァ
8/6/2025, 11:43:02 AM