「傘の中の秘密」
この前新しい傘を買ってもらった。今までは電車の絵柄の子供っぽい小さな傘。僕ももうおにいさんなんだからっておねだりして、少し大きめの青色の傘。でもずっとお天気が良くて傘の出番が来ない。部屋で時折開いては閉じてを繰り返し、翌日雨が降らないかなって思いながら翌朝迎えて、晴れていることにガッカリした。
いつもの様に部屋で開いて傘をくるくる回してた時だ。部屋の明かりは点けていたのに、部屋が夜空の様に真っ暗になって、辺り一面星空に囲まれていた。
あれ、僕夢見てるのかな?なんて頬をぺちっと叩いたけど叩かれた頬がじんわり痛くなったから夢じゃなかった。
「こんばんは」
「ピャァッ!」
いきなり声をかけられてびっくりして、上擦った変な声が出た。
声をかけたのは大きな身体の…駅長さん…?
「こ、こんばんは!」
改めて挨拶したけど…部屋には僕しか居なかったはず…?
「こんな所で人と会うとは珍しい。迷子かな?」
「へ…?だってここ、僕の部屋で…」
「お部屋…ああ、『繋がった』んですね」
「つながる?」
さっきからずっと分からない。この人は何を言ってるんだろう…?
僕がキョトンとした顔をしていたからか、駅長さん?が説明してくれた。
「すみません、説明不足でしたね。ここは人間が普通は来れない場所なんです。そうですね、最近では異世界と言えばいいでしょうか。事故や強い衝撃で来られる事はあります。ですが、ごく稀にこの世界と貴方達の世界がうっかりくっついてしまうのです。」
「うっかり」
「ここの世界の管理者、少々雑な部分がありましてね…。とまあそんな訳で、貴方は偶然来てしまったのです。」
「ど、どうやったら戻れるの?」
異世界と聞いて少しワクワクもしたが、やはり自分の世界には帰らないといけない。
「ソレです」
駅長さんがスっと指したのは新しい傘。傘を開き、自分の世界へ繋がる穴に飛び込めば戻れるらしい。
無数の星あかりに照らされて駅長さんに教えてもらった「穴」の場所に来た。
「ではここでお別れです。久々に人とお話が出来て良かったです。ああそうだ、こちらをどうぞ。」
ぽんっ と傘にハンコを押された。
「今見てはいけません。ご帰宅後にご覧になってください。では、『よい旅を』」
背中を軽く押されすっかり僕は穴に落っこちってた。
ーーピピピピピ
部屋の目覚ましが鳴り響く。
「……はれ…?」
ベッドから落ちて、部屋には開いたままの傘が転がっていた。良かった、戻ってきたんだ。というかやっぱり夢だったのかな。
少し残念に思いながら傘を閉じようとした時に赤色のハンコが見えた。
「これ、昨日の…夢じゃなかったんだ」
でもちょっと人には話せない体験。だって「ぼくはおにいさん」だから。
6/2/2025, 2:14:24 PM