「この世の終わりを探しに行こう!!」
まるで「宝物を探しに行こう」というかのように、ヤツはキラキラした目で、高らかにそう言った。清々しい晴天を背にして。
明日8月31日朝5時6分、ここに太陽が昇る前に、東京ドーム5個分の大きさの隕石が落ちてきて、なんか、終わっちゃうらしい。地球が。世界が。ばっからし。もうとっくに異常気象で終わってんじゃん。夏の青空、入道雲の向こうに見える一粒の光、あれが死の隕石だと言われても実感が湧くでもなく、不貞腐れてエアコンの効いた自分の部屋に寝転がっていたら、いきなり窓からヤツが入ってきて、高らかにそう言ったのだ。
「おい不法侵入、どうやって入ってきた」
「どうって、こう」
目の前のアホはご丁寧に、もう一度窓から出入りしてみせる。
「こう、じゃねえよ。ここ5階だぞ」
「で、行くの行かないの?」
「どこに」
「この世の終わりを探しに」
「探してどうすんの」
「楽しそうじゃん」
「あほくさ」
野次馬かよ。起き上がって損した。私はもう一度寝転がる。
ヤツが開け放った窓からは、むっと焦げたような臭いがする。それは外に生い茂る夏草のものなのか、世界の終わりだからなのか、分かりかねた。それはあまりにも、地球の生命の力に溢れた臭いだった。私は太陽が宙返りしたって驚かない。誰がどう足掻こうが、もう世界はめちゃくちゃなのだ。
ヤツは机の上に置かれた作り物の檸檬を手に取る。デッサンの課題用に買った、百均の。リアルなデコボコがまるでこれからお迎えする隕石みたいで、嫌気がさして放り出してあったのだ。
「勝手に触んなよ」
「課題は?」
「あ?」
「終わったの?」
「こんな時にやる気出るかよ」
「じゃあ行こうよ」
ヤツは大口を開けて作り物の檸檬にかじりついた。
「おい、それ」
チープな材質と塗料でできたプラスチック製、中は空っぽで、からんからんで、うわべだけの、見かけだけのやつ。だったはずなのに。
かじった断面から汁が滴った。立ち上る爽やかな香りは、本物の檸檬そのもので。
「本当に終わってるかなんて、行ってみなきゃ分からないよ」
酸っぱそうに眉根を寄せて、くしゃくしゃの顔でヤツが笑う。
窓の外では絶滅したはずの蝉が鳴いている。
【お題:夏草】
8/28/2025, 12:10:05 PM