川柳えむ

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「どうして長袖を着ているの?」
 真夏の、暑い日差しの中、そう尋ねられた。
 その質問が飛んでくるのもわかる。最近の異常気象。到底こんな長袖じゃやっていけない。
「日焼けしたくないので……」
 それに対して、いかにもな理由をつけて返す。
 相手は納得してくれたようだ。

 真夏の、涼しい部屋の中、また同じ質問が飛んでくる。
「どうして長袖を着ているの?」
 その質問には、もう慣れている。
「冷房が苦手で……」

 一年中長袖を着ている私を不思議がる人はたくさんいる。大抵、こんな理由を伝えれば納得してくれる。
 でも本当は、半袖が着られないだけだ。
 よくある話だ。長袖の下には、見せられない痛々しい傷痕が残っている。
 その時は苦しみから逃れる為に。後先のことなんて考えず、傷を付けた。後先のことなんて、考える必要もなかった。すぐにでも終わらせたかったから。
 でも、思っていた以上に、その先は長かった。
 そして、夏がこんなに暑くなるとも思っていなかった。
 本当は半袖だって着たいけれど、あの時の私がそれを許してくれない。まるで苦しみから逃れるのが罪のように。今の私だけが楽になれると思うな、と。
 いつか許される日は来るだろうか?
 この傷痕が消えて、また半袖が着られる日を願っている。


『半袖』

7/25/2025, 10:30:46 PM