歳をとると、動けなくなる。
40歳を過ぎて、明らかに出かけるのが億劫になった。家でスマホをいじりながら、こたつに入って、みかんを食べる。私はもう、こたつ虫から孵化できないかもしれない。
「忘年会、参加されます?」
キーボードから顔を上げると、バインダーメモを持った青年が白い歯を見せて笑っていた。
行きたくねえ。
忘年会には、知らないオッサン、ウザ絡みのオッサン、嫌なオッサンが混じっている。むさくるしいオッサンとともに封じ込められた空間に、鍋の湯気が上がる。私は蒸れてしまって、呼吸できない気がする。
「あ……どうしようかな……」
「今回は蟹のフルコースですよ。行きましょうよ!」
「いや……」
そのとき、スマホの通知が鳴った。「ちょっと、ごめん」と断って、スマホをポケットから取り出す。この隙に冷静になって考えよう。
こたつか、忘年会か。
虫か、孵化か。
『お姉ちゃん、赤ちゃん産まれたよ!』
メッセージとともに、ふかふかのタオルに包まれた小さな赤ちゃんがあくびをした写真が付いていた。超かわいい。今すぐ会いたい!
『おめでとう! すぐ行く!』
私は親指をスマホ画面に高速連打した。そして、ゆっくりと青年の方を向き直す。
「ごめん、妹に赤ちゃんが産まれたみたい。これから帰るから、忘年会は行けないや」
「えっ!? おめでとうございます! いやいや、忘年会なんか全然お気になさらず」
「ありがとう。今から沖縄まで帰らなきゃだから」
本当は電車で二時間。
「沖縄……これからですか?」
窓の外を見ると、月明かりに海が照らされていた。私の心は踊っているけれど、田舎の夜は静かだ。
「だって早く会いたいもん」
「アグレッシブっすね……」
「そんなことないよ」
そう言って、大きく息を吸った。
なんだ、全然飛べるじゃんと。
11/28/2025, 7:49:44 AM