こんな夢を見た。縁側で私は夜桜を見ている。昼の桜は当然美しいが、夜の桜も美しい。今晩は満月で淡い桃色の花が照らされいる。光っているように見えて美しさが際立つ。こういうのを桜月夜と言うのだろう。
「月と桜を肴に一杯いかが?」
後ろの障子が開き、お盆に載った徳利とお猪口が出てきた。
「ああ、一杯もらうよ」
ニュッと障子の隙間から白い手が伸び、徳利を掴むとお猪口に酒を注いだ。
「どうぞ」
「ありがとう」
お礼を言い、お猪口を手に取る。ふと、二人で飲んだ方が楽しいのではないかと思い、声の主に尋ねる。
「あんたもこっちで飲まないか?」
「お酌をするのが好きなので」
「じゃあ飲まなくてもいいから、こっちで月と桜を見よう。綺麗だぞ」
「顔を見られたくないので」
難儀な奴だ。私はそれ以上声をかけずに酒をあおった。白い手が徳利を持っていたので、もう一杯もらった。
「…来年もここで見てくれますか?」
「そうだな。今夜の月と桜を見ながらの酒は美味かった。また来る、来年はあんたと酒が飲めると良いんだけどな」
障子の向こうから、息を呑む音がした。
「嬉しい。来年もお待ちしております」
ビュウと突風が吹き、桜が舞う。満月を囲むように散った花びらがぐるぐると回る。それを眺めている内に私は気が遠くなっていった。
「約束ですよ。月と桜が満開になったら、あなたを迎えに来ますから」
気を失う寸前、そんな楽しそうな声が聞こえた。
3/8/2026, 1:08:24 AM