お題『大切なもの』
いつも何かを忘れているような気がしていた。例えるなら朝起きて夢の内容を忘れてしまっているかのような。
傍から見たら十分満たされていると思われているであろう自分には何かが欠けているのだろうか。
でもそれが何なのか、自分には分からない。子どもも恋人もいないが、昨今では珍しくもなんともない。ならば一体──?
太陽の強い照りっ返しを受けて目を細める。偶々通りがかった公園には子どものはしゃぐ声もしない。蝉が妙にやかましく鳴いているだけだった。
いつもは気にしないはずの風景が少し物哀しく映った。でも、暑さにしか目が向かなかった昨日より少し輝いてみえたような気がした。そんなある火曜日のこと。
4/2/2024, 1:11:37 PM