NoName

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夜景の中に飛び込んだ時、君は何を思ったのだろう。綺麗に揃えられた靴の奥に見えた、煌々と輝く街の灯りは、私にはただの無機質な電灯にしか見えない。
躊躇いもなく君は夜景に足を踏み出した。私にはきっとそれができない。目の前の終末を前に足踏みをする私に、君は何を言うだろうか。

躊躇うこともなく最期を選びとれた君を、羨ましいなんて思えない。だってそれは、これまで生きてきたこの人生に、大した執着がないということだから。
私はまだ、この旅を終わりにはできない。
幸せだから。
「死ぬ時に、後悔したかったなあ」
君は後悔ができない。
死ぬことに恐怖はない。生きることに未練はない。
だから君は、船を下りることができた。
みっともなく、恐怖で甲板に縮こまる私とは違う。両手いっぱいに風を感じることができる君は、私よりもずっと自由で、奔放で、悲しかったのだろう。
「夜の街は、きっと夜空みたいだろうね」
逆さまに落ちていく君の瞳には、そう映ったかもしれない。けれど、私には、やっぱりそれはただの電灯の集まりだ。
それでいいんだ。

1/31/2026, 3:40:08 PM