深夜の誰もいない教室に、それは現れる
過去にこの学校に在籍しており、病気で若くして亡くなった少年
生徒の間で噂される、学校十三不思議のうちのひとつ
No.8、絵師霊
七不思議では足りないため、数字が増えた十三不思議の中にありながら、彼が恐れられることはなく、むしろ生徒たちから愛されている
彼の姿を見たものはいないのが、それでも人気なのだ
その理由は、彼の生前からの夢と未練によって引き起こされる怪奇現象にある
彼は漫画家になりたかった
小さい頃から様々な漫画を読み、親しみ、感動してきた彼が、その夢を持つのもごく自然なこと
その夢を忘れられず、この世に残り続ける彼は、チョークで黒板に漫画を書き始めたのだ
その漫画が生徒に評判で、絵師霊という名で呼ばれるようになった
漫画はすべて写真として保存されている
絵師霊の出没する教室には、漫画を愛する彼のため様々な漫画が供えられており、それらは絵師霊を楽しませるだけではない
新たなアイディアの源泉でもあった
絵師霊は嬉しくて、夢中で毎晩様々な漫画を描き、生徒たちを楽しませる
そんな中で、噂を聞きつけた会社から、彼にプロとして連載する話が舞い込んでくる
絵師霊は初めて、人前に姿を表した
その姿は、どこにでもいる普通の少年だ
会社側は、学校への配慮と、幽霊というプロフィールではなく、自身の実力で頑張れるよう、絵師霊の正体を隠した上で連載したいと言い、絵師霊はそれが自分の望みでもあるため、快諾した
絵師霊は地縛霊ではない
単に、漫画を大勢に見せたかったから、慣れ親しんだ学校にいたのだ
亡くなった場所が学校ではなく病院なのがその証拠
だから絵師霊は連載のため、一時的に学校の外へ出た
生徒たちは秘密を守り、彼を応援する
打ち切りになる不安もあったが、絵師霊は前向きに、ダメでもまた生徒たちが自分の漫画を楽しんでくれるさと、明るい気持ちで連載に取り掛かった
絵師霊の連載は好評だった
月刊で連載される漫画を描く傍ら、時々息抜きで学校へ行き、以前のような漫画を黒板に描いたりもする
そうして数年の連載を続け、ついに漫画は最終回を迎えた
学校の卒業生や在校生は、夢を叶えた絵師霊が満足して消えてしまうのではないか
そう不安になりながらも、彼が満足できたならそれでいいと、納得もしている
だから、盛大に見送ろうと彼を学校に迎えたのだ
絵師霊は消えなかった
彼の漫画への探究心はとどまるところを知らない
夢を叶えてなお、彼は学校で夜な夜な漫画を描きながら、次の連載に向けて構想を練り始めたのだ
絵師霊の漫画家としての道は、まだ始まったばかりだ
9/6/2025, 11:24:02 AM