私、永遠の後輩こと高葉井は、
すごく幸運な縁があって、推しゲーの生誕地かつ聖地な私立図書館で仕事をしてる。
私立でもガッツリ経営が成り立ってるこの図書館は、なかなか広くて、ドチャクソ不思議で、噂によると開館から館長が一度も「変わってない」とか。
人の魂を食っているんだと言われてる。
多分、館長をモデルにしたキャラが、そういうキャラだから、だと思う。
実際ウチの館長は完全に不思議キャラというか、厨二キャラというか、自称ド変態というか。
あんまり、図書館に顔を出さない。
……館長なのに(でも出されても困るかもしんない)
で、今日もそんな都内の私立図書館に——私の推しゲーの聖地で生誕地の職場に、
堂々と推しグッズをバッグに付けて
筆記用具も推しグッズで揃えて
今年から推しに昇格したホト様師匠プロデュースのコスメでバッチリ整えて、
意気揚々と、通勤したワケだけど、
まさかの、前職から一緒に仕事してる先輩の、
瞳が完全に光と霧の狭間でギリギリ元気してるような虚ろ目で、確実に疲労してた。
私達界隈では、虚ろ目のことを「瞳から光が消える」とか、「瞳に霧がかかる」とか言うけど、
その日の先輩の目は、まさしく、
ギリギリ正気を保ってるような、ギリギリ眠気と元気の綱渡りをしてるような。
光と霧の狭間でうつらうつら、頑張って起きてた。
どうしたんだろ(虚ろ目先輩)
何があったんだろ(瞳に半分霧がかかった先輩)
「言葉を話す不思議ハムスターが部屋に来たと言っても、おまえ、信じないだろう」
ポリポリポリ、かりかりかり。
光と霧が半々の瞳で、先輩はナッツを口に放った。
「だから、気にしなくて良い。ただ私が昨晩、寝ていないだけ。それだけだ」
それだけだよ。
先輩は相変わらず、光と霧の狭間でカリポリ。
ナッツの固さで眠気を払ってた。
ハムスターって何の隠語だろう
と思ったけど
よくよく思い出してみるとウチの図書館が聖地になってる推しゲーに、そういえばマスコットキャラとして、言葉を話すハムスターがいた。
ほーん(なるほど聖地ジョーク)
「先輩も段々ゲームのこと覚えてきたんだね」
「なんだって?」
「ハムスター」
「はぁ。それが?」
「えっ違うの」
「なにが?」
「えっ」
「え?」
「さっきの聖地ジョークじゃないの?」
「整地、なんだって?」
「ええ??」
忘れろ。なんでもない。本当になんでもない。
先輩はそう言うと、大きなあくびを噛み殺して、
朝ごはんの代わりだっていうナッツを食べた。
「先輩不思議なハムスターってなに」
「信じないだろう。忘れろ」
「ねぇなに、ハムスターってなに」
「だから。忘れてくれ」
あーだこーだ、云々、
私と先輩で言ってる間に、朝礼の時間が来て、多古副館長が着席。今日も館長は不在。
「あらあら、アラアラちょっと、どうしたの藤森」
副館長もやっぱり先輩の虚ろ目が気になるらしい。
「すいません。不摂生です」
瞳が完全に虚ろと言うか、光と霧の狭間で揺れてるカンジの先輩は、副館長にただそれだけ、一言。
副館長もそこから先は詮索しない。
「あら珍しいわね」
とだけ返して、
そのまま朝礼に移行して、今日の仕事が始まった。
けっきょくその日先輩が、なんでナッツで眠気覚ましして、なんで瞳が虚ろだったのか、
最後まで、分からなかった。
10/19/2025, 9:41:59 AM