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「手を繋いで」

横にいる彼女をそっと見つめる。
僕よりもちょっと幼くて、まだ喋ることも上手にできない小さな女の子。

彼女の手は僕の方に伸びていて、ぎゅっと手を握っている。お風呂に入る時だって、ご飯を食べる時だって片時として、手を離したことは無い。

今までも、これからも。この手が離れることはないだろう。

「ねぇ、そろそろご飯食べよう?」

「うっ…ん!」
だいぶ発音は出来るようになったようだ。
出会った頃に比べれば、上達はしているだろう。

「今日はね、パンだよ!」

「……ってっ、たぁ!」
ニコニコと笑う君。嬉しそうで良かったと出された食事に口を付ける。

もぐもぐと美味しそうに食べる、彼女を尻目に僕は1人考える。此処からどう脱出しようか。

連れてこられたのは2年前。
君はまだ赤ちゃんだったからきっと覚えてないだろう
けど。

起きて、食べて、寝る。
与えられた物で暇を潰す。
そんな、生活にも懲り懲りしていた頃だった。

壁に貼られた紙を見て唖然とする。
生き残りたくば、どちらかを殺せ。
そう書かれた文字とナイフがあった。

殺せ。殺せ?ころせ?コロセ。
横を見る。文字もまともに読めない彼女には、どんなに恐ろしいことが書かれているなんて知る由もないだろう。

巫山戯んな。年端もいかない子を閉じ込めて、挙句の果てにはコロセって。

「いい加減にしろよ!!」
怒りに任せて壁を蹴る。ドンッと音がして、足がジンジンと痛む。

「アッ…どっぅし…て?」

「あっ、ごめんね。君を怒った訳じゃないんだ。」
怖がらせてしまった。頭を優しく撫でる。

どうするかなんてもう決めている。

そっと手を離す。
彼女の大きな目が見開く。

「心ではずっと手を繋いでるからね。どうか、僕のことを忘れて、君として生きて。」
きっと僕は不細工な顔をしているだろう。

グサッと自分の首にナイフを突きつける。
頸動脈を切れば1発だろう。

「ぁっ、!あっあー、ならっ泣」

意識が遠のく。もう痛みも無くなってきた。もうそろそろ死ぬだろう。

カチャっとドアが開く音がした。
君の泣き声も遠のいていく。

大好きだよ。
君に届くことの無い声は喉の中で消えていった。

12/10/2023, 9:15:43 AM