お題『優越感、劣等感』
主様の担当執事として、これほど身に余る光栄はないと思う。主様は俺があやせばすぐに泣き止むことが多かったけど、喃語を卒業して少しずつお話ができるようになる頃には完全に俺にべったりで、他の執事たちが担当することはまずなかった。
——主様唯一の担当執事——
俺は、ずっとその優越感に浸っていた。
それなのに。
主様が11歳の誕生日をお迎えになる数日前のこと。
「おはようございます、主様」
てっきりまだねぼけまなこだろうと思っていたのに、主様は既に外出用のワンピースに袖を通していて、窓を少しだけ開けて外を見ていた。
「……決めた」
何を決めたというのだろう? 俺が口を開くよりも早く、主様はこちらを振り向いた。
「今日からしばらく担当執事はアモンにしてちょうだい」
あまりにも急なことすぎて思考が追いつかない。一体主様は今何とおっしゃった?
「アモンと街までお出かけしたいの! 今日からしばらくフェネスはお休みしてていいから」
主様は再び窓の外に目を向けた。視線を追うと庭の草花に水遣りをしているアモンの姿があった。
もしかして、これは事実上の更迭というやつなのか?
俺……主様に嫌われるようなことを何かやったかな? 記憶を探ってもこれと言って思い当たることが……うう、ありすぎる。というかそもそも俺なんかを今まで担当にしてくださっていたのが不思議すぎる。
暇を言い渡された俺は書庫の整理をしつつ、ふとバルコニーから外を窺った。
そこには、仲良く馬車に乗り込もうとしているふたりがいて、それ以上見ていられなくて書庫の奥に引っ込んで嗚咽を噛み殺した。
7/13/2023, 1:02:43 PM