Lacryma

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幻想的な木漏れ日の中であの子は本を読んでいる
その姿は女神のように美しくて
目を離したら消えてしまいそうで怖かった

「またあの子を見ているのか」
背後から声がして振り向くと
そこには私の友人が立っていた
「心配せずとも消えたりしない。君が触れぬ限り」
その言葉に息が詰まる
「ああ、わかっているよ。だってあの子は」
花だ、と言いかけて口を噤む
涙など出ないのに、目の奥が熱くなって声が震えた
貴方は少しの沈黙の後、視線を落として呟いた

「あの子は花の精で、そして君は火の民だ」
言いたくも聞きたくもない事実だ
私はあの子に近づくこともできない
あの子は花で、私は炎で
それなのにどうして私は
あの子に恋をしてしまったのだろう
私も貴方のようになりたかった
貴方のように命を生かす水の神官に
私が貴方やあの子のようであれば
こんな時に涙が出るのだろうか

「貴方に触れれば、私は消えてしまえるのか?」
呟くと、貴方は呆れたように笑った
「これが勇猛果敢で力強い火の民とは思えない」
それから私の目をまっすぐに見つめて続けた
「じきに冬が来る。冬になれば皆凍えてしまう
春を待つ間、君はたった一つの希望だ」
そう言うと貴方はあの子の元へ歩み寄って行った

木漏れ日に照らされた二人は笑い合っている
私はそれを遠くで見ていた
貴方もあの子も私の大切な友人で
けれど、決して触れることのできない存在
それでも私が小さな灯火になれるなら
私はきっと、誰にも触れられぬままでいい

3/2/2026, 12:14:16 PM