Morris

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将軍と聖女。騎士と女傑。
彼らは深く結ばれている。では、私と彼はどうなのだろうか。
友人とも恋人とも呼べない、なんとも不思議な関係。けれども、彼のそばにいると安心する。

「いい子だね」

彼の手が頬に伸びてきた。摺り寄ってみると、頭も撫でてくれて、耳と尻尾が動くのを感じる。

「いつも思うけどさ……コレ、そんなに面白い?」
「うん。気持ち良さそうにしてるの見ると嬉しくて」
「そうなんだ……いや、まぁ、ゼルに撫でられるのは嬉しいけども」

確かにサンクタには尻尾も耳もないし、輪や翼から感情は読み取れない。同族間では共鳴で言葉を交わさずとも感情を伝えられるらしいが。便利だとは思うけど、なりたいかと言われればそうでもない。
それに私は彼らが苦手だ。共鳴も一つの理由だが、行く度に珍しいものを見るような目で見られるから。
それでも、彼に会いたいという気持ちは止められず、ラテラーノへ行く理由を探し、彼のことを考える日々が続いていた。

「どうしたの、ナル」

唐突に呼ばれ、真っ直ぐな目で見つめられる。耐えられず目を逸らすが、彼は決して引かない。優しい声だ。でも、この声は他の誰かにも向けられている。私だけのものではない。ならなくていい、なってはいけないんだ。

「どうして逸らすの?嫌だった?」
「違う……違うけど、わかんない、とても苦しい」

彼とこの空間を、時間を共にしているのが嬉しい。知らないところで彼とと笑っている、そんな誰かが憎い。私の周りには誰もいない気がする。
感情が抑えきれない。気が狂う。自分の存在を消し去りたくなる。

「ナル、僕はここにいるよ」

差し出された手を握る。滲むように伝わる暖かさが、胸の中にある苦しみを和らげてくれる。
空いていた手を伸ばし、彼の背中に回す。どうするのかと考えていると、体が浮いた。
抱えられるままに力を抜いて、目を閉じる。彼の足音と鼓動を聞きながら、静かに息をしていた。半ば眠りに落ちていたところで、ドアが開いてベッドに降ろされた。

「ゼル……?」
「輪が眩しいかなって……ごめんね」

背後から抱きつかれたかと思うと、腕で視界を遮られ、彼の声だけが聞こえる。

「頑張っててえらいね」

彼は普通に喋ってるだけだ。それなのに、どうしてこんなに体が反応してしまうのだろう。

「……大好きだよ」

その言葉にどんな意味があるのだろう。彼は何を思ってそういったのか、私はどういう風に受け止めればいいのだろうか。

「ふふ、すごい揺れてる」
「そんな気はしてたけど、改めて言われると恥ずかしい……」

取り繕うことを放棄した尻尾は素直とも言える。彼は気を良くしたのか、髪の毛に隠れていたもう一つの耳を暴いて──

「ナル……愛してるよ」

体が大きく震える。胸の奥が少し苦しくなって、冷えた体は指先まで熱を持ち始めた。


たまに会いに行って、こうやって溶かしてもらう。体を重ねることはないが、言葉や行動の端々からを見れば、恋人だと言われてもおかしくはない。
傍から見たら奇妙な関係だと思うだろう。当事者でもある私ですらそう思っている。


「……私も、ゼルのことが大好きだよ。だから今は、独り占めさせてほしい」

いつもより蕩けた声が喉の奥から出る。返事はなかったが、腰に回されていた手が強くなった。





「満ち欠け、満ち引き、繰り返す揺らぎ」

お題
「距離感」

※地名や種族は明日方舟から。

12/1/2022, 7:06:52 PM