yunyun

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私は幸せを届けるお仕事をしている。
朝から晩まで、たくさんの人に幸せを届け、皆を幸せにすることが私の使命である。まだ、新人だが、早く一人前になれるように今日も頑張っている。
今日は明日転校する男の子の元へ行けばお仕事が終わる。明日の幸せを届ける準備もしなくてはならないので、本音を言うと、早く終わらせたい。私は姿を消して、男の子の部屋の中にそっと入った。中には、小学五年生ぐらいの男の子がいた。その男の子は友達らしき子供達が写った写真を眺めていた。
「シュウー?明日、早いんだから早く寝なさーい。」
「うん……。わかってるよ。」
シュウと呼ばれた男の子は部屋の中からお母さんらしき人に返事した。その顔はとても悲しそうだった。きっと転校するのがつらいのだろう。
「やだなぁ……。転校したくないな。」
シュウ君は写真をアルバムに挟むと、ベッドに仰向けに寝転び、天井を見つめていた。いつの間にか、目には涙が溜まっていた。
私は、どんな幸せをあげようか悩んでいた。一時的にこの辛い気持ちを幸せにするは違うと思うし、何より、今すぐに「何かで」幸せになるのかが検討がつかない。
幸せを届ける時に守らなければいけないルールがある。一つ目は、人間に姿を見せてはいけない。二つ目は、幸せを届ける対象の決まっている予定を勝手に変更してはいけない。そしてもう一つは、何かの出来事で幸せにすること。だから、転校がなかったことにはできないし、今何かで幸せにしようとしても、肝心な何かがない。
深夜0時、シュウ君が完全に眠りについて焦っていたとき、私はあることに気がついた。そして、眠っているシュウ君に幸せを届けた。

「シュウー!一緒にサッカーしよう!」
「待ってー、今行くー!」
あれから数日後、大人の女性に幸せを届けたあと、偶然にもシュウ君の声が聞こえてきたので様子を見に行くと、新しい学校の友達とサッカーをして遊んでいた。その表情は楽しそうだった。
あのとき、私が届けた幸せは「新しい学校でたくさんの友達と仲良くなれる幸せ」を届けたのだ。別に今すぐ幸せにしなくてもいい。後で、幸せにしてもいい。辛いことの後での幸せは、嬉しいときの幸せと同じくらい大切だ。幸せには、たくさんの種類がある。それに気づけただけでも、その人に適切な「幸せ」を届けられる数は違ってくると思う。
今日も私は幸せを届けに行く。
その場を立ち去る前に振り返って、小さな声でつぶやいた。
「お幸せに。」

3/31/2024, 5:12:32 PM