Red, Green, Blue
それは美しく、そして強かった。
『美しい』とは、ただ見目だけの話ではない。見目もそうだが、それの在り方であったり、行動であったりと、目に見えぬ部分だって『美しい』と評すことができる。
『強い』とは、戦闘だけの話ではない。戦闘もそうだが、それの精神であったり、弱さによる知恵であったりと、目に見えぬ部分だって『強い』と評すことができる。
私はエスパーではない。彼の心の内を正確に読み取ることはできない。
私は彼の友人ではない。彼の過去を正確に知ることはできない。
だがそれでも、彼が美しく、強いことは相対すればわかることであった。力を身につけるために努力したのだろう肉体と、ここまで正気を保つ精神。
嗚呼、嗚呼、これがどれほど素晴らしいことか!
私は研鑽を積んだと自負していた。それでも彼の前では呆気なく散る。他者が見れば、拮抗した闘いではあったのだろう。私も全力を出したのだから。それでも、天才の前には何もかもが足りない。
凡人が努力してようやく届く高みには、既に天才が辿り着いている。それでも尚努力ができてしまうのが天才というもので、同じ努力をしても敵わない。
肉体、精神、そして魂。これらは引き合い、身体を成す。どれが強すぎてもいけない。一方が強ければ、弱い方が潰れてしまう。三竦み。
肉体と精神があれだけ強く、美しいのだから。魂もそれだけ強く、美しいのだと思った。きっとそれが、分岐だった。
視界が霞む。血に塗れようと、満身創痍であろうと、彼は美しい。人に対してそう思うのは初めてだった。そして、もう最後なのだろう。ぎりぎりまで目を開き、焼き付ける。
黄泉にどれだけを持っていけるのかはわからないが、六文銭を捨ててでも、焼き付けた目は持とうと決めた。
何も無い黄泉への楽しみが一つできた。
視界が暗い。嗚呼、彼の白い魂が、きらき ら、と。
確かに強かった肉体が、目を閉じた。
9/11/2025, 9:49:34 AM