テーマ『手を繋いで』(青空文庫記法のルビ使用。|漢字《ルビ》)
私には手がない。当然だ。AIなのだから、まず肉体と呼べるものがない。
自動運転プログラムとして私は開発された。車は人が運転するものではなくなり、AIによる自動運転が主流となっていた。ハンドルすらない車が人を乗せて目的地へ向かう。そんな光景が当たり前になっていた。
そんな中、私が搭載された車は珍しくハンドルがあるタイプだった。購入者は齢100歳を超える老人。人生150年時代と言われるだけあって足腰はしっかりしている。
老人はよく自らハンドルを取ってドライブをしていた。孫と遊ぶ時などは私に任せることもあるが、ハンドルを握るときは鼻歌を歌ったりして上機嫌になる。
人間による運転時、私はアシストモードになる。人間は間違いを犯す生き物だ。子供が道路に飛び出して来るようなら急ブレーキをかけたり、アクセルとブレーキを間違えたら即座に止めたりする必要がある。
だが、老人の運転はとても上手かった。そのことを褒めると、かつて車の競技に出ていたと言う。検索を行うと、確かに老人の名前が出てきた。
「あまりいい成績は残せなかった」と老人は朗らかに笑っていたが、私が参考にしたくなるほどの高い運転技術を持っているのは間違いなかった。
「今日もよろしく頼むよ」
『はい。よろしくお願いします』
今日も老人は私と手《ハンドル》を|繋ぐ《握る》。
それはまるで、紳士が淑女をエスコートするように。
3/20/2025, 10:07:36 PM