窓から見える景色が、好きだった。
窓を額縁に、自然が描き出すものを楽しむ事ができた。
隣の公園の桜が、二階にある私の部屋とちょうど同じくらいの高さだったので、春には満開の桜が額から溢れんばかりに見えていた。
のほほんとして、全てを否応なしに穏やかにしてしまうような春は少し嫌いだった。でも、空気に溶けそうな淡いピンク色で、しあわせをそのまま絵に描いたような桜がふわふわと揺れているのを見ると、春も悪くないと思えた。
夏が近づくと山の竹林がさわさわと音を立て、夜には蛍が飛んだ。より夏が深まれば、濃いみどり色の空気を蝉時雨が震わせた。
紅葉の色が変わっていくのを眺め、金木犀のかおりで秋の訪れを知った。遠くには、彼岸花が畦道を赤く染めているのが見えた。
たまに夜中まで眠れずにいると、絹を裂くような音が聞こえた。うつくしい、鹿の鳴き声だった。
冬になると辺りを真っ白にするほど雪が積もる。
もう何ヶ月もすればかわいい花を咲かせる桜も、この時は水墨画のような幹に雪を乗せ、重たそうにして耐えていた。
日が昇る時の曖昧な空の色も、日没の強い色彩も、全てを描き出す窓だった。
わたしと共に育った窓。
これからもわたしの心に、生きていく窓。
9/26/2023, 7:25:36 AM