谷間のクマ

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《「こっちに恋」「愛にきて」》

※明里×蒼戒 大学生if

『こっちに恋』
『あ、漢字間違えた……』
『まあいいか』
 私、熊山明里のもとに今は離れたところに住んでいる彼氏の蒼戒からそんなメールが届いたのはとある春の日の午後8時くらいのこと。私はそのメールが届いた時はちょうどバタバタしていたからメールを見たのは午後10時過ぎ。まあよくないだろ……、と思いながら返事を打つ。
「何あんたが来いなんて珍しいね。どーしたの?」
 そう送ると、すぐに返事があった。
『あ、いや……、なんか最近忙しくて……』
「疲れた、と」
『……御名答』
「あんたが言うくらいなんだからよっぽどなんでしょうね。お疲れさん」
『ありがとう……。しっかし須堂先輩と言い沖原と言いどいつもこいつも自由すぎるぞ……』
 須堂先輩は蒼戒や私のふたつ上の歴代最強の元女主将、沖原先輩は私たちのひとつ上の元主将だ。蒼戒はこの2人も進学した東京の大学に通っている。なんでもこの大学、剣道がめちゃくちゃ強いんだとか。
「要するに須堂先輩と沖原先輩のしわ寄せがきてるわけか」
『御名答。並木町にいた頃とほとんど何も変わってない気がする……』
「まあ須堂先輩も沖原先輩もいるしね。そういえば堀江くんもいるでしょ?」
 堀江くんは私たちのひとつ下で蒼戒の『ファン』。蒼戒を追っかけ回して遂に大学まで行ったはず。
『ああ、いるぞ。メンツが全然変わらないな……』
「だね。ところで私今週は忙しいから行けないからね」
『そこをなんとか……』
「無理。というか《恋》じゃなくて《愛》に来なさいよ。そのくらいの時間は取れるわ」
『その手があったか……。新幹線のチケット取るか……』
 いつもはちゃんと計画立ててから来る蒼戒が衝動的に動いているあたり、今回は本気で疲れているんだろう。というかこの調子だと本当に来そうだ……。
「日時がわかったら教えて。その時間だけでもなんとか空き時間を捻り出してやるわ」
『ああ、また連絡する……』
「ちなみに取れても2時間が限界だからね」
 そう送るが、もう返事は来ない。どうやら本気で新幹線のチケットを取っているようだ。
「さーて、2時間、捻り出せるかしら」
 私はそう言ってスケジュール帳と睨めっこを始めた。
(終わり)

2025.4.25 《「こっちに恋」「愛にきて」》

4/25/2025, 4:04:39 PM