#もしも未来が見れるなら
「え? そんなことが出来るならどんなアイドルが出てくるか見たいなぁ!」
わくわくとした顔で笑って答えたのは明星くん。
「宝くじの当たり番号見てくるとか? だって俺らお金ないしさー! 活動資金欲しいだろ」
やはり笑みを浮かべながら、真面目な返答をくれたのは衣更くん。
「咄嗟には出てこないな。……強いて言うならば、おばあちゃんが元気な様子を確認するか」
凄く真面目な口調で淡々と呟くのは氷鷹くん。
「じゃあウッキ〜は?」
「え、そうだねぇ。みんなと一緒に活動してる状況を見たり、困ったことに巻き込まれていないか確認するかなぁ」
「俺とあんまり変わんないね! ウッキ〜だったら眼鏡をいつ買い替えるか確認するのかと思った!」
「いやいや! そんなことのために未来を見るなんて勿体無いからね?!」
あはは、と笑い声を響かせながら次の仕事に向けて着替えを終えた。バックパックを背負うと、他のみんなも同じように着替え終わっていて、直ぐに移動出来る状態になっていた。
「次の撮影現場って初めて行くところだよね〜?」
「大丈夫! 地図は調べてあるからちょっと待ってね」
端末のロックを解除すると幾つかのメッセージが届いているのが目に入る。『天気予報が外れて夜は雨が降るみたいですよ。お迎えに行きますんで撮影終わったら連絡ください』。
「……未来が見えたらこういうやり取りもなくなるのかなぁ」
思わず呟いてしまったが、何故だか氷鷹くんが微笑ましいものを見たと言わんばかりのいい笑顔をしていた。
「未来など見えても見えなくても、きっとお前はそういうささやかなやり取りをすると俺は思うぞ」
「だよね〜? じゅんじゅんは心配性だし!」
「真は未来を見るのは勿体無いって自分のためには見ないだろうしな〜」
矢継ぎ早に口にされると、僕が見ていたものが見えてしまったのだと理解する。
「え! 何で見えたの?!」
「だって地図見せてくれるんだと思ったからさ〜。みんなで覗いてたよ?」
そういえばそうだった! 見ていないと思い込んでいたのが恥ずかしすぎる!
「帰りは俺ら先に出るからな! 漣とゆっくり帰れば良いぞ」
「も、もう! 揶揄わないでよ!」
地図を表示させて、行き先を示すとみんなが歩みを揃えた。
確かに未来が見られるとしても、些細なやり取りは変わらないのかもしれない。例え他の人から見たらたいしたことがないやり取りだとしても、お互いに気にかけて言葉を交わすなら他の何にも変えられない素敵なものになるだろうと僕は思った。
4/19/2023, 11:36:05 AM