無音

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【146,お題:大空】

「俺、いつかパイロットになりたいんだ!」

「パイロットになって大空を飛び回りたい!」

「そしたら、ハルも一緒に乗せてやるからな!」


そう言ってた彼は、不慮の事故で下半身不随になった。


不慮の事故、それは操縦試験の最中だった
急な不具合を起こした試験用の航空機が墜落したのだ

不運なことに、それはパイロットになれる最終試験の時だった
ここさえ通過すれば資格が取れる、そんな中の事故だった

彼が長年追い続けた、強い憧れへの道を絶ち切ったのは
他の誰でもなく、彼が愛してやまない飛行機だったのだ


病室で見た彼の横顔はまるで別人のようだった
話しかけても反応しない、生きているのに死んでいる、全てを拒絶するような暗い表情
飛行機の話をした時だけ、ほんの少し悲しげに瞳が揺れるのが
私には酷く悲しかった。


「私、自家用操縦士のライセンス取るから」

「......、...!......」

そう言った時、初めて彼が顔を上げてくれた

「私も大空を飛んでみたいの、そして......」

一旦言葉を切る、彼にこの言葉を掛けていいのか迷いがあった
少し考えて息の塊をひとのみにして、言った

「そしたら...アンタも一緒に乗せてあげるから」

何で私はこんなに口下手なんだ、と密かに自身を呪いながら
不器用にでも笑ったつもりだ、彼は少し目を見開いて
もう一度瞼を閉じた、それから少し間を空けて

「......おう、...頑張れ...!」

へにゃりとそう笑って見せた。

12/21/2023, 1:11:15 PM