アリア

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「ままワンちゃん!可愛い!」

子どもの声にそうだねと優しく笑う。
週末雨でする事も無くてペットショップのある
モールに来ていた。
様々な犬や猫がいて子ども達は大はしゃぎ。
びっくりしちゃうからシーだよと言うと
口を手で抑えて勢いよく頷く姿が愛らしい。

「ワンちゃん…いいなぁ」

その言葉にグッと押し黙る。
この流れは良くない。
安易に家にお迎えはしちゃいけない。
でもそれが小さい子に伝わるか怪しい。


「ねぇママ、ワンちゃん飼いたい!」
「ワンちゃんと寝たい!」


ザーザーと降りつける雨の音と
子供達の無邪気な声に頭が痛くなる。
無意識に拳を握っていた事に気付くと
深呼吸して子供達の前にしゃがんだ。


「ママもね、ワンちゃん家に居ると楽しいと思う」
「じゃあ!」
「でも最後までお世話しなきゃいけないよ」
「出来るもん!」
「……もしかしたら途中で死んじゃうこともある」
「え…死んじゃうの…?」


子どもの悲しげな顔にズキッと胸が痛む。
でもこれは命の問題だ。
容易くいいよとは言ってあげられない。


場所を変えてペットショップ前にあるベンチに座り
2人の頭を撫でた。



「最後まで頑張って生きるワンちゃんもいる。
でもね事故で死んじゃうワンちゃんもいるのよ」
「…じこって…おくるまとか?」
「そうね、色んな事故があるけど…」



脳裏にちらつく愛犬。
ここで泣いてはこの子たちを心配させてしまう。
頑張らなきゃ。


「2人が大きくなってママの言ってる事が
わかるようになってまだ飼いたい!て思ったら教えてくれる?」
「うーん…わかった!」
「僕も!早く大きくなりたいな!」
「ふふっ、うん」



よし、帰ろうかと2人の背中を押しペットショップを後にする。
これでいい。
今はこれでいい。



あの空虚感と
やるせない気持ちや罪悪感。
こんなの小さい頃から味わなくていい。
寂しくなって泣いちゃう顔は見たくない。


安易な気持ちで命を買う判断をしちゃいけない。
色んなケースがあるんだ。
覚悟を持っていないといけないんだよ。



「雨、あがったね!」
「ほんとだ!虹ー!」


あぁ良かった。
雷は鳴るまでじゃなかったんだ。


「虹、綺麗だね」


苦しい気持ちと懐かしい気持ちに蓋をして。
またいつか
この傷が癒える日が来るようにと。


2人の笑顔とまだ消えない虹を見ながら
3人は帰路についていった。



お題【寂しくて】

11/10/2025, 1:46:01 PM