「夜中に鏡を向かい合わせ――
つまり合わせ鏡をすると悪魔が現れるって話。
聞いたことあるだろ?」
「都市伝説というか怪談であるよね。
聖書で尻尾を挟んだり、瓶に閉じ込めたり、色々パターンがあるみたいだけど」
「というわけで鏡を2枚用意してみました」
「……え、やるの? 作り話だぜ?」
「悪魔に渡す供物してリンゴも用意してみました」
「……やるのね。
でも夜中まで待つの面倒くさすぎるんだけど」
「酒とツマミと、暇つぶし用に新作ゲームも用意してみました」
「はいはい、用意の良いようで……」
……
「ところで何で悪魔への供物がリンゴなの?」
「L知ってるか――」
「それは死神じゃねーか」
……
「さて23時50分だね」
「そうだな。ながかった。もぅ眠い。
ていうか寝よう」
「いやいや待て待て。
せっかくここまで頑張ったんだから、あと10分ほど頑張ろうよ」
「いいけどさー。どうせ何も起こらないぜ?」
「いや、色々起こるね。
こぅ……びゃー?って感じで」
「ふーん。まぁ何でも良いけど」
……
「あと残り3分弱。ここらでネタバラシをしようか」
「?」
「深夜0時に合わせ鏡をすると悪魔が現れるという話。実はあれは――ウソなんだっ!」
「うん。知ってた」
「実は夜中に合わせ鏡をすると現れるのはーー
『異界への道』なんだ!」
「……わー、そうなんだー。すごーい」
「その異界への道から異界人が時々迷い込んできたり、逆に異界へ迷い込む人もいるわけだ」
「それは何というか、運がない間抜けな人達だな」
「そう、そんな運がない間抜けな君のために帰り道を用意してみた」
「は?」
「鏡、見てみ」
「いや異界人? え? って、ちょ、ちょっ、鏡がっ、なんか、こぉ、びゃー?ってなってる!?」
「さぁ森へお帰り」
「それはΩっ!」
……
「帰れったって、そもそも俺は異界人じゃないぞ! あとなんだ、このびゃーってのは!」
「普通の人類にはツノも羽も尻尾も生えてないんだよなぁ」
「いや、これは人類として当然の……お前は生えてないな?」
「そうだね。あと、僕たち友達でも何でもないって、覚えてる?」
「え、いや……そういえば、お前は誰だ? あとなんかここに来るまでの記憶がない! ツノなし人間に誘拐された!?」
「落ち着け。落ち着いて思い出せ。異界への道を通った者は、時として記憶の一部を失う時があるんだ」
「そ、そうなのか?」
「そして失われた記憶は、その時傍にいた人間の記憶やら常識を元に疑似的に再構築されたりもする。君がツノなしの僕と違和感なく接していたみたいにね」
「ほー」
「しかし安心してくれ。
失った記憶は異界への道を通って元の世界に戻れば元通りに蘇るから」
「なんか詳しいな。オカルト専門家なん?」
「記憶を失う前の君に聞いた。
嘘か本当かは君次第だよ」
「マジか。俺がオカルト専門家だったのか」
「それは知らんけど。
まぁ無事に送り返すことができそうでよかったよ」
「あー。ありがとう?」
「どういたしまして」
「ん~と…………また遊びに来て良い?」
「……リンゴの用意はしておくよ」
// 向かい合わせ
8/26/2023, 9:45:29 AM